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大学受験・大学院で人生は広がるか

本章では、大学の選び方、あるいはその結果として人生が広がるという話をします。高校までは親元を離れることがなかなか難しく、新しい環境に飛び込むというのは相当難しいのですが、大学は親元から離れるきっかけとなるものです。実家から飛び出して新しい環境に触れるというきっかけとなることもあり、そこで最良の選択をしてほしいと思います。もちろん、大学に行かないからダメというわけではありません。ただ、有力な選択肢の一つとして考えて欲しいし、Betterの中のBetterを選んでほしいと思っています。

大学受験がチャンスなわけ

親元を離れて寮に入るとか、一人暮らしをする高校生ってどれくらいいますか?ゲームやアニメでは親の海外出張などで一人暮らしをする高校生というのは割とありますが、現実には極めて少ないでしょう。したがって、大学入学は本当の一人暮らしを始めるきっかけであることが多いと思います。

全寮制の高校というのは、基本的に私立高校(中高一貫含む)ですが、やはり絶対数が少なく1、そこに巡り会うチャンスが少ないです。一方で、大学は遠くの大学に行くことも普通ですし、特に地方出身者にとって、家のすぐ近くに大学があるという環境もかなり稀ですから、自ずと一人暮らしとなる必要が生じます。

なおいうまでもないことかもしれませんが、一人暮らしで大学に行くためには学費の他に一人暮らしの費用がかかります。家賃、光熱費など、居住・通学の地区にもよりますが、5万から10万円の追加支出となります。この額は親としては家計上のインパクトは決して小さいものではありません。

その上で、(首都圏を除く)高校生の皆さんには、あるいは高校生のお子さんを持つ親御さんには、ぜひ首都圏の大学を受験してほしいと思います。学業あるいは得られる学位のレベルには差はないでしょう。ですが、人間関係の広がり、あるいは就職先の広がりという意味で、地方大学と首都圏の大学の差は歴然としていると考えます。

筆者自身、田舎から大学入学を機に首都圏に出てきて、そのまま首都圏に居ついたクチですが、地元の近くに行ってたら今とは全く違った人生になっていたであろう、という想定に震えています。地元近くの大学だったら「不幸だったか」というと必ずしも不幸だったとは言えないでしょう。Ifを語ることが難しいですし、ABテストは不可能です。ですが、今と全く違った人生だったことは明らかです。

受験志望校の選び方

受験する大学を選ぶ軸はいくつもあります。自分が進みたい学部・学科を選ぶのはもちろん重要です。そして受かる可能性はどうかという評価軸である偏差値や難易度からの評価は重要です。ですがそれ以外にも、大学の立地面からの大学選びは非常に重要です。

まず、偏差値という観点、あるいは判定ランクという観点で大学を選ぶことはよくあるでしょう。「Aは楽勝、Cはチャレンジ」など、偏差値ランキングとにらめっこしながら地元近くで鉄板校、チャレンジ校を選ぶ、という姿は容易に想像できるでしょう。私もやりました。そして、地元近くも当然受験するとして、それとは別に1週間程度首都圏に出て、数校受けてみることをお勧めします。最近では記念受験という言葉も廃れてきている感はありますが、首都圏でも鉄板、チャレンジ、記念の3パターン網羅して受験できると最適です。例えば、A判定の日東駒専、BCのMARCH、CDでも早慶・上智や青学などというパターンが考えられます。受験する学校は適宜読み替えてください。。受験するだけでも簡単ではありませんし、お金もかかりますから、闇雲に受けろと言いたいわけではないですが、せっかく遠征したのに全滅とかはレベル設定が適切ではないということになります。

ここで言いたいのは、地元近傍と、首都圏で両方受かって、「さあ、どちらに行こうか」と悩める状況を作るのが肝心です。地元近傍でのみ受験していると、都会に出るチャンスがなくなります。選択肢を広げるという意味で、大学入学を機会に地元を離れる、首都圏に出ることの有効性は非常に大きいです。

そして、特に親御さんにお願いしたいのは、多少費用がかさんでも、受験したいというお子さんにネガティブなことを言わないであげてほしいと思います。無謀な受験もありますが、首都圏の受験はその後の人生を大きく広げる可能性が高いと考えます。自宅から通える範囲にせよなどの条件をつけるのはできるだけなしにしてほしいです。また極端には、例えば通学に1時間かかるような位置ですと、つい「毎日通いなさい」「自宅から通学できるよね」などと言ってしまいがちですが、一人暮らしをするチャンスというのは非常に少ないものです。

確かに自宅から通うことで家賃(月数万円+光熱費等)を節約することはできます。ですが、片道1時間かかるとした場合、1日2時間、時間を浪費することになります。大学生の2時間は貴重です。その分、研究する、ゼミに出る、図書館で勉強する、バイトする、あるいは友人と遊ぶ。いずれも貴重な時間です。その2時間分を有効活用できるように一人暮らしをさせてあげるとともに、学費・生活費を確保してあげてください。

極論ですが、名古屋と東京間が2時間かからないくらいですから、東京の大学に名古屋から通うということもできます。真偽は不明ですが、名古屋の医者の箱入り娘で、一人暮らしをさせるのが怖いからということで、新幹線通勤をしていた、という話を聞いたことがあります。親の気持ちとしてはわからなくはありません。終電時間でコントロールできますし、費用的にも許容できないほどのものではありません。が、やはり貴重な時間を通学に浪費するのはいかがなものかという感想しか生まれませんね・・・

奨学金をうまく使う

最近ですと、奨学金という名の借金が問題になっていますが、給付型(返済不要)なものと、貸与型(返済必要)なものに大別でき、かつ貸与型は利子のあるものと、無利子なものに分けられます。

日本学生支援機構の給付型奨学金があります。この記事を書くにあたって少し調べていたところ2020年度から対象が広がったという記事を見つけたので記載します。(利用の際は詳細確認はご自分の責任において実施ください) https://www.jasso.go.jp/shogakukin/kyufu/index.html

世帯収入が基準額以下であることなど制限はありますが、教育ローンなどを考える前に、まずはこちらを検討しましょう。入学金や学費減免と、給付分を合わせると学費ゼロ、住居費相当額程度が給付されることになるようです。お金がないから大学に行けない、ということを考えたことがある、いわれたことがあるなら、まずこれを検討してください。

それ以外にも、様々な公益財団法人や企業が給付型奨学金を行っています。ただしそういった給付型は採択数も少なく、成績優秀者に限られますので、正直厳しいものがあると思います。給付型奨学金の募集は、大学の掲示板などに貼ってあることが多いですが、場所がわからない場合は事務に聞いてみるなどしましょう。「出身県による」などの条件がある奨学金もあります。給付型奨学金は金額的には、月2~3万円程度、年額にすると20万円とか30万円程度になる者が比較的多いようです。

次に検討するのは、貸与型奨学金でしょう。

比較的給付のハードルが低い(誰でも給付を受けられる)貸与型奨学金の代表は、日本学生支援機構です。国の期間ですから、採択件数が多いので受給しやすいです。日本学生支援機構の奨学金は、貸与型で無利子の第一種奨学金と、有利子の第二種奨学金があります。

第一種奨学金(無利子)は2万~6万4千円/月、大学院(修士課程)で5万~8万8千円の給付が受けられます2

特に理系であれば、学会発表等の業績により半額免除されることが少なくありません。理系の修士課程で学会発表数件、論文(1stが望ましいが、2nd数本でもいける)など、ある程度真面目にやっていれば比較的簡単に取れるものです。したがって学部のうちは奨学金なし、修士から免除を狙って奨学金を借りるというのはアリです。あとで10年近く返済の義務が生じますが、大学生の間の金策に走る必要がないという意味で、非常に良い制度です。(ただし、免除選考における大学によるバイアスはあるかもしれません。また、業績が積めるかという意味で研究室ごとの当たり外れはあるでしょう)。博士課程に進めば免除されるという話も聞いたことはありますが、現状どうなっているのでしょうか・・・

日本学生支援機構の第1種奨学金(無利子)は、大学で月額5万5千円(自宅外・私立)、大学院で月額8万8千円貸与されます。私立大学の学費ほぼ全額、あるいは生活費の全額+αがまかなえます。8万8千円をバイトで稼ぐと考えた場合、時給1000円として88時間、月の稼働日を20日とした場合、毎日4時間あまり働く必要があることにとなります。社会人のフルタイムとまではいきませんが、相当な時間です。

大学生活を送るにはお金もかかります。それは十分にわかります。わかりますが、金策に走り大学生の楽しいことができないというのは悲しすぎます。そういう意味で、親には学費分くらいは確保しておいてほしいし、学費は自分で稼ぎなさい、はぜひやめてほしいです。大学卒業後にはそれなりに稼ぐようになります。学生のうちの100万円と、社会人の100万円、そのもの価値および稼ぐための時間の価値は全く違います。100万は100万ですが、それを稼ぐために必要な時間と労力は異なり、社会人の方が一般にかなり容易になります。したがって、今の支出は投資であると割り切ってほしいです。

大学生という身分はお金で買っているとも考えられます。お金で買った時間を使ってバイトしてお金を稼ぐという、ある意味”熱力学の法則”に律速されるような構造になってしまいます。

ただし、有利子型は本当に借金ですから、十分に注意しましょう。日本学生支援機構の第二種奨学金は、利率は0.2%とか0.3%など非常に低く抑えられていますので比較的問題ないでしょうが、銀行等の「教育ローン」と名の付く商品では1%~4%程度を謳っています。いわゆる消費者金融あるいは多目的ローンに比べると低いですが、利子の確認は必須です。学生支援機構の奨学金と貯蓄で乗り切りたいものです。そのためにはあらかじめお金をストックしておく必要があります。なお、具体的なお金の稼ぎ方、あるいは投資に着いては別章を参照ください。本章ではお金の準備の仕方については触れません。

学部の選び方

基本的には、「自分の適性にあった学部・学科を選ぶのがベストです。」と言いたいところですが、それがわかったら人生苦労しませんね。

興味で選ぶ、好きなことができる学部を選ぶ、夢を叶えるための学部を選ぶ。いずれも正解です。

ただし、医者になりたいなら医学部にいくしかありません。歯科医師や薬剤師もほぼ同様です。しかし、弁護士などであれば法学部でなくてもなれます。また学校の先生になりたいからといって、教育学部でなければならないかというとそんなことはありません。大抵の職業は学部に制約されるわけではありません。最短コースか、少し回り道か、くらいの差かと言っていいかもしれません。むしろ、成り行きで行ってみると案外楽しいことになる可能性もあるくらいです。

どうしてもやりたい内容があって、それができる大学・学部を選ぶ、というのは非常に良いことですが、そこまで決まっている人は何も迷う必要はありません。ぜひその道に進んでください。なお、進学校で成績トップ層にいる人は「とりあえず医学部」という受験指導がされることがあります。ですが医者になりたいとも思っていない人がそういう指導をされるのは不幸です。今はもうそんな無茶な指導はされてないんでしょうか・・・

なんとなく、理系、文系で学部を選ぶことが多いですが、数学が嫌いだから文系、語学が苦手だから理系とか思ってませんか?とはいえ、理系だって、論文読んだり書いたりするためには英語を読み書きする必要があるし、学会に行けば英語でディスカッションは普通にあります。また経済学部なども数学普通に使います。人文系だからといって数学を使わないというなんてことはありません。統計など正しく使うには数学の知識は必須です。そして、高校まででならう内容は世の中の基礎ではありますがごく一部ですから、その科目の好き嫌いや得意不得意を大学進学の選択に使うのは得策とは言えないでしょう。まずは、やってみたいこととそれができるところ、という形で選ぶのが理想です。

ただし、入りたい学部に入れる成績を有しているというのは最低限必要です。そのためにちゃんと勉強しましょう。指定校推薦などで受験せずに滑り込むとか、一発勝負で賭けるといった戦略は任意ですが・・・

まずは、やりたいことを基準に学部を選んで、偏差値・合格可能性と大学の立地から受験する大学を決める、といった手順で決めていくのが鉄板なのかもしれませんね・・・

”大卒”はファストパスか?運転免許か?

個人的には、大学を出ているということは、ある種ファストパスであると考えます。

ここでいうファストパスとは、遊園地などで使われている、列に並ぶ時間を減らして優先的に乗り物に乗れる券と定義します。これに対して、運転免許はそのままの意味で、持っていないとその行為ができないことと定義しましょう。無免許でも運転することはできるよね?というはなしは一旦置いておきましょう。確かにそういう話が出てくることは文脈によってはあるのですが・・・

定義を確認したところで話を戻しましょう。学部の選び方のところで、医師になるためには医学部に入るしかない、という話をしました。日本の法律で、医師になるためには医学部を出て医師国家試験に受かって医師免許を得る必要があると定められています。医師免許を持たないで医業を行うと無免許医として処罰されます。ここではブラックジャックとかは考えません。一方で、IT系の会社に入るにはCS(Computer Science)の学位を持っていなければならないか、CS系の学部を出ないといけないかというと、決してそんなことはありません。新卒でも転職でも、文系(大学)からSIerとか、デザイナーからWebエンジニアへ、とか、まあ言い出したらきりがないくらいいろいろなパターンがあるでしょう。

ただし「CSについて勉強したことがある」ということは、IT分野で生きていくのに都合が良い、あるいはスタートラインがちょっと有利になる、といった効能はあるでしょう。具体的には、その方面の会社に入社しやすいとか、入社してから勉強する量が少なくて済む、あるいは関連/隣接する領域で知識があるので最初からなんとなく話がわかるなど、が挙げられます。ファストパスだけでは乗り物に乗れないが、持っていると少し有利になるという意味で、やはり大学などの高等教育はファストパスたりえると考えます。IT系を念頭において例を出しましたが、色々な分野で同じようなものであると考えられます。

ただし、大学卒ということが、単なるファストパスかというとそうでもない場合があります。大学卒業が運転免許となる例を二つほど例を挙げます。

古い体質の大企業では、現場職である高卒のひとと、総合職である大卒・院卒の人では、キャリアが全く異なるという例はよくあります。大卒・院卒は総合職・幹部候補として採用され、課長、部長、役員と順調に出世していきます。現場職は、現場での昇進はするものの、基本的に部長や社長への道が通じていないことが多いでしょう。業務の内容も異なります。同じような職種でも、そういう区別・運用がない会社もありますが、こと大企業においては入口が異なり、そのあとのルートが全く異なるということに対して、大学卒、院卒ということがエントリーの条件である、すなわち運転免許である場合があります。同じ会社に入るにしても、入り口を間違えるとその先不幸になる可能性があります。

もう一つは、特に理系の博士号です。大学および公的な研究機関への(理工系の)研究者としての就職にあたって、理系の博士号は運転免許です。募集要項に「博士の学位を持つこと(または着任までに取得見込みであること)」と明記してある例がほとんどです。博士号を持っていないとエントリーすらできないということですから、運転免許に該当します。なお博士の扱いに関しては、持っている人と持っていない人によってとらえかたは違うでしょう。なんのためにとるのか、といったところも含めてよく考える必要があると思います。この節では、博士号が運転免許である例を挙げるにとどめます。

それでも大卒はデフォルトルートである

大卒でなければ希望する仕事につけないかというと、決してそんなことはありません。その点からすれば大学に行かなければならないかというと、決してそんなことはありません。ですが、選択肢の多さという意味で大卒というルートはデフォルトルートであると考えます。よく言われるのが、とりあえず大学は出ておけ、という言説。高卒での選択肢と大卒の選択肢は決定的に違います。基本的には、選択肢は多い方が良いと考えます。

統計情報は様々なメディアに出ていますのでここでは深掘りしませんが、初任給の差は小さくとも、高卒と大卒ではその後の給与の伸びのカーブが大きく乖離するため、大卒の方が生涯給与が大きくなる傾向にあります。

大学への進学率は50%前後3と言われています。人と同じルート、というと残念感はありますが、先人が踏み固めたルートであるとも言えます。未踏のルートの開拓はやりがいはあるでしょうが、やはり大変です。

修士課程はデフォルトルートではない

前節で大学はデフォルトルートであると述べましたが、大学院にいく意味についてはまた別の議論が必要です。こちらは、間違いなく少数派です。先の文科省の資料によれば、22才人口との比較で、大学院は5.5%の進学率です。22歳の20人に1人ですね。小学校のクラスに一人か二人と考えれば、相当に少ないといえるでしょう。

また大学にいった人の11%が修士課程に進むそうです。また学部によっても大学院の進学率は全く異なります。文系では5%前後に対し、理系(理学部・工学部など)は40%前後など、大きな差があります。

院に進むメリットは、当然より深く学問を修め、などとはいいますが、勉強した経験というよりも「研究活動をした経験」であると考えます。大学院生は基本的に研究者(のたまご)として一つのテーマについて取り組みます。卒論は参加賞、修論は努力賞、と言われることもありますが、何かしらの研究・調査の結果をまとめて、学内のレポート、学外の学会や研究会、あるいは論文として発表することが研究者としてのミッションです。こういうことは高校のカリキュラムには含まれません(最近だとそういうプレゼンなどの科目もある程度増えているかもしれませんが)。筆者は理系(理工学部、応用物理寄り)でしたので、他の学部の卒論・修論についてはよく知りませんが、2年間(のうちのある程度の時間を使って)一つのテーマについて研究を行い、学会発表ができるレベルが修士学生・修士論文の最低限だと考えます。その経験は学部までで得られるものとはやはり大幅に異なり、理系で(大企業の)開発職は大学院卒が標準的だったりしますが、研究開発職に就くにあたっての最低限は修士ではないでしょうか。そのため、院に進むことで、研究開発職など、新しい就職先が選択肢として出てきます。

もちろん修士に進むためにはお金(まず学費や生活費)はかかります。さらに2年の「余計な」時間がかかりますから、お金を出して時間や選択肢を買っている、ということも少し意識する必要はあります。

さて、院に進むデメリットですが、2年間遅れて入社するため、単純に業務に関する経験という意味では大学卒に軍配が上がります。いくら大学院で勉強・研究していたとしても、業務に直結する知識・経験・成果という意味では、2年の業務経験に勝るのは相当困難です。また、学費を支払っている2年間と、給料をもらっている2年間の差は非常に大きいです。下手をすれば、最初の10年くらいは奨学金の返済で貯金もできない、なんていう状況にもなりかねません。

入社後の昇給カーブは会社によりますが、単純に入社年数で昇給する場合は、入社が2年遅れる分昇進は遅れます。修士の分である2年分昇進が早くなる場合は差はないと言えるかもしれませんが、勤続年数に依存する企業年金などの面では不利になります。年数関係なく能力や成果によって昇進するような会社の場合は、早く入社して仕事での成果を出した方が良いかもしれません。また独身寮の補助が年齢で制限されている場合など、単純に損をするシチュエーションもあり得ます。入る会社次第ではありますが、修士ならではのメリット(選択肢が増える、研究開発職などより専門的なところに行ける、など)、修士のデメリット(仕事の経験年数、学費などの支出、学部卒しか採用していないことにより選択肢が狭まる)なども比較する必要が出てきます。ただし、これらは後から振り返って考えてみると、そういう側面もあるよなー、といった話です。なんとなく惰性で会社を選ぶというのもそんなに悪くないとも思います。

[column] 2年遅れるという時間的なリスクとメリット

もう1点、大事な点があるので記載しておくと、修士課程に進んだ場合、就職活動が普通は間違いなく2年後ろにずれます。

一般的に今までの経験則でいうと、景気の好況・不況の波は大きく10年サイクルと言われていますが、悪くなる時は一気に崩れます。(例:91年のバブル崩壊、07年のサブプライムショック)また、どんなに賢い人でも2年後の景気の予測は100%当たる事はありません。(それが予測できるのなら、投資家になれば大儲けできるのですが…)

各会社の採用人数は景気が良いと広がり、景気が悪いと狭まるため、景気が良い時は人気の会社から埋まっていくにせよ、すべての会社の採用枠が増える傾向にあるので大企業や上場企業に新卒チケットを使って入社する場合、より人気の会社に入れる可能性が高まります。景気が悪い時は逆にほとんどの会社が採用枠を絞る関係で、人気のある会社の採用枠はすぐ埋まってしまいます。 今、景気が良いが2年後は景気が悪くなるかもしれないリスク、今、景気が悪いが2年後は景気が改善している可能性なども、考慮に入れたほうが良いと思います。

(ただし、学部生の間に普通では取得が難しい難関資格(士業資格や応用情報技術者試験、日商簿記1級など…)を取れた場合などは更に悩ましく、「学部生なのにこのレベルに到達している」という希少性が、修士課程に進むと薄まるケースもあります。ケースバイケースで判断は分かれるところだと思います。)

どうにもならない景気要因などの外的な環境を強引に2年後ろに持っていけるのは相当なメリットになるケースもあるということを頭の片隅においておくと良いでしょう。

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最初に述べたように、修士課程への進学は決してデフォルトルートではありません。ですが、理系であれば主要なルートの一つといっていいと考えます。

博士課程はさらにニッチになる

では、博士課程はどうでしょう?明らかに、さらにニッチになります。24歳人口に占める博士課程進学率はわずかに0.7%です。先ほどの修士がクラスに12人に対して、140人に一人すなわち学年に1~2人や学校に一人といったレベルになります。ただし、修士からの進学率では、10%程度になります。面白いのは、人文系、社会科学系の修士からの進学率が20%に近いのに、修士に進む割合が高かった工学系ではわずかに56%であるというところです。母数から考えるとかなり面白いですね。一方理学系は17%程度が博士課程に進むので、理系といえどかなり様相が変わります。なお、保健系の博士がやたら多いのは、医学博士が山ほどいるからです。

さて、末は博士か大臣か、などと言われたのは100年前、いまとなっては、日本で20人程度しかいない大臣と、年間1万5千人前後が取得する博士号の価値は流石に同列にはできません4

なお、個人の感想としての博士課程について述べます。博士に価値がないという意図ではありません。博士課程に価値がないとは決して言いませんが、今となっては、博士課程に進まなくてよかった、と思っています。会社員生活の後半のどこかで博士の学位はとりたいと思っていますが、修士から直で博士課程に入らなくてよかった、という意味です。ただし、課程に進んだ人の努力と成果を否定するわけではありません。あくまで私個人の意見として聞いてください。

足の裏のご飯粒

博士の学位は足の裏のご飯粒であると言われることがあります。取らないと気になるけれど、取っても食えない、という意味です。博士の統計において、博士を取った後の進路の2〜3割が未定あるいは無職といった総括がされています。期限のない職につけるのはごく一部、大抵は特任助教といった期限つきポストになります。その中で業績を積んで、テニュアトラック(期限なしポスト)にありつくというのが課程で博士を取った人の少なくないキャリアパスです。一般企業の研究開発職に行くというパスもありますが、博士を採用している会社はそんなに多くありません。(多くはないとはいえ決して少なくはありませんので、これまで経験した研究内容にある程度近い部分があるとか企業の要望するスキルと合致するなら、大学や公的研究機関に固執するよりよっぽど幸せになれるはずです)

XX大学XX研究科特任助教 〇〇博士と書くとすごく見えますが、契約社員(XX大学)と書くと途端にヤバさを感じますよね。もちろん相応に優秀な研究業績を持って博士号を取得したのですが、世の中にはそんな博士がポスドクなどの「有期契約社員」の身分にごまんといます。

博士課程に行くかどうか迷った話とその時もらったアドバイス

もともと研究者になりたかった私は、博士課程に進むのが当然だと思っていました。M1の冬頃、研究室のボスに「進路どうするの?」と聞かれ、「子供の頃からの夢でもありますし、博士課程に進みたいです」と答えました。そのときボスから言われたことは、「内定1個取ってきたら博士課程入学のハンコ押してやる」でした。結果として就活をして、一般企業の研究部門への配属が前提の内定が出たこと、その研究部門の結構な割合の人が社会人Dr(課程も論文博士も)を取得していることなどから就職することに決めました。

一般には大学の先生は博士課程への進学を推奨するでしょう。単純に研究室としての人手が増え、業績は増えますし、自分の後釜も育てなければいけませんしね。そういう意味で「内定を取ってきたら」という発言は一見矛盾するかもしれません。その意図について簡単に説明します。

当時、研究室のボスは大学院の専攻長をしていました。その中で、Drは取ったけれどそのあとの就職に苦労する学生をたくさん見ていました。修士で就活をせず、あるいは修士で内定が取れなかったために消去法でDrに進んだ人が、一般企業/研究機関/大学を含むとしても修士より狭き門となる博士での就活に苦労しているところから、「修士で内定の1個も取れんやつは、博士の内定は取れない」という意図であったと聞かされました。

博士の就職はそもそも選択肢が少なく、自身のこれまでのテーマとのマッチングがより重要視され、さらに競合も多いという三重苦です。しかも3年間(あるいはもっと)の間学費もかかり、収入は少ないため、その3年間の金銭的負担は相当なものです。DC1/DC2などの特別研究員でさえ、企業の給与と比較すると・・・言葉になりません。DCが取れる学生は相当優秀ですから、それが取れないとさらに金銭的には厳しくなるでしょう。DCは研究への専念のため、バイトなども禁止されています(大学の非常勤講師やティーチングアシスタントなどは例外だが週5時間など制限あり)。

修士の給与が平均月収23万、ボーナスが出るとして300万くらいでしょうか。に対して、DCの研究奨励金が月20万=年240万ですね。授業料などで100万近くかかるとすると、年収150万です。あるいはもっと低いかもしれません。いきなりお金的にはそれだけのディスアドバンテージがつきます。そしてそれが3年間続き、むしろ修士卒の人は2年目3年目の昇給があるかもしれません。そしてそれだけ頑張っても、博士のその先に確実な職があるとも限らないのです。

結果として、私は一般企業の研究部門に就職し、今楽しく仕事をしながら趣味として技術同人誌を書いています。博士課程に進んでいたらどうなっていたか。IFは想像できませんし、不幸になっていたに違いないとまでは言いませんが・・・本当にどうなっていたことやら・・・。なおそっちのルートにいっていたら、そういうものだと疑問を持たなかったかもしれません。

またもう一つ。昨今大学は研究費が非常に少ないです。これに対して、企業の研究開発部門はある程度研究費があります。少なくとも今の会社で研究開発費が少ないなぁ、と思ったことはほとんどありません。大学あるいは研究室でお金を取ってくるのがうまい研究室もあるので一概には言えませんし、その企業に研究費が潤沢にあるかどうかは当然個別案件にはなります。それを差し引いても、企業の研究開発部門に修士で入るというのは良い選択肢だと思っています。うまく業績を積めれば、後から社会人博士として博士号を取りに行けば良いのです。

社会人の博士号とは何か?

これは完全に私見です。

博士号、特に社会人にとっての博士号は、運転免許やファストパスではなく、後付けの認定称号だと思っています。「今までの10年ないしは20年で人に誇れる成果をちゃんと積みましたね」ということをわかりやすい形で認定してもらえるものと認識しています。ですから、会社である程度の業績を積んだ人が、40歳とか50歳になってこれまでの成果を整理して、あるいは指導教官の指導のもと補強して(論文博士としてあるいは社会人コースに入ることで)手に入れる称号のようなものだと考えています。

ですから、きちんと評価される実績がある人だから、博士号が取れる人は部長など順調に昇進していきます。社会人の博士号は大抵の場合、持っているから昇進するというものではありません。課程で取って入社する場合、単純に実務経験としては3年分マイナスです。現場で3年長い修士、あるいは5年長い学士の方が経験を含めて能力が高い場合もあるでしょう。会社によっては博士号そのものを評価する、あるいは昇進カーブが変わる可能性もありますが、変わらない場合も少なくないでしょう。

もちろん博士号を持っているからその人が優秀というのは外部から見るとそうでしょう。ですが会社の中ではあまり関係ないでしょう。逆に優秀だから、博士号がついてくる、と考えてみた方がしっくりくる場合が多いです。会社の中での業績を積んで昇進する。そのついでに論文をまとめたら、最終的に認定称号が手に入った。そういう意味での冒頭の「後付けの認定称号」です。

また、海外において、Drの扱いが異なる、尊敬されるというのは本当でしょう。大学などに転籍するために必要な運転免許であることも事実です。ですが同じ会社にいる限りは、持っていても持っていなくても昇進などにはそんなに影響しない場合も少なくないと考えます。

ただし、ここで誤解しないでほしいのは、博士取得が簡単だとか言いたいわけではないということです。業務にプラスして論文を書くとか、大学に入るなど、追加の負担は相当であると考えます。

まとめ

一人暮らし、あるいは人間関係が大きく広がるチャンスである大学受験に関していくつか記載しました。大学をうまく選ぶことでその後の選択肢が大きく広がります。その一助になれば幸いです。給与や生涯給与だけを考えろというわけではないですが、評価軸の一つとして大学へいくという選択肢はその後の40年ないしは一生を決める大きな選択だと考えます。

博士号・博士課程についても、私見を述べました。私自身が持っているわけではないので、反論もあるでしょう。会社や大学によってまちまちであるというご指摘はもっともです。ですが、こういう考え方もできる、という一つの参考になれば幸いです。

筆者の経験に基づくことが中心ですから、実体験から20年近く経過してしまっており、最近の情勢とは異なっている可能性があります。であれば申し訳ありません。ちゃん調べたり、近くにいる大人、経験者に聞いてみるというのは一つです。ただし経験者も知っているとは限らないし、抑圧する側に回ってしまうことは多々あります。複数のチャンネルを活用すること、あるいは最低限調べて飛び込んでみる、というのも一つの選択肢です。

[column] 偏差値が足りない・学費が出せない人の学歴ハック

名古屋在住のフリーランスエンジニア、S(エス)と申します。 自分自身の経験から、ちょっとした学歴ハックのお話を。 一言でまとめれば「大学には二部・夜間と呼ばれる学部を用意しているところがあり、そこに入学する」というもの。

  • デメリット

    • 授業は夕方~夜の時間帯なので割と忙しい
    • 学校によっては正規で5年間のカリキュラムになっているところもある(=社会に出るのが遅くなる)
  • メリット

    • 通常の昼の学部に比べ、学費はおよそ半分
    • 昼間にはアルバイトが出来るため、それなりに収入が得られる
    • 希望者が少ないこともあり、偏差値が低くても入れる可能性が高い

と言った感じで、個人的には十分良い選択だったと考えています。

実際の学校生活はこんな感じ。(うろ覚えなので、あくまでもイメージです。)

  • 7:30 起床
  • 9:00 アルバイト
  • 17:00 終業
  • 17:45 1コマ目開始
  • 19:30 2コマ目開始
  • 21:00 部活・サークル・委員会へ
  • 22:30 飲みに行く
  • 25:00 寝る

少数派ではありましたが、40代と見受けられる社会人の方も通われていました。また、自衛隊に入って昼間は働きつつ、特殊な免許(無線関係や車両関連)を取りまくり、夕方から授業に出て、(門限が厳しいため)終わったら直ぐに帰宿する、という人も。

夜にわざわざ大学に通う、と言うと苦学生のような真面目なイメージがあるかもしれませんが、決してそういう訳でもありません。授業後は日常的にみんなと飲みに行ったり、大学祭で模擬店を出したりと、一般的な大学生のイメージと変わりません。

ちょっと辛かった思い出を挙げるとすれば、一つは(理系の場合ですが)実験レポートの提出が大変だったということでしょうか。一般教養が終わると、授業で実験→宿題でレポート作成して提出、のループに追われます。

また、もう一つが研究室に入ってから。研究室によっては、教授が「研究に多くの時間を割けない二部学生」に興味を持っていないところもあり、卒論が英文レポート翻訳して終わり、のような「楽だろうけど、大学に入った意味がないのでは…?」というパターンもあるようです。 逆に自分の場合は、教授や先輩、昼間の学生たちも同じように接してくれていたため、英語論文の輪読会や卒論用の研究など、負荷が高かった記憶があります。とは言え、研究室のみんなで飲みに行ったり、合宿での成果発表に向けて徹夜で資料準備したりといった経験は、とても楽しい思い出になっています。

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Footnotes

  1. Wikipediaに寮のある中高の一覧がある程度の数しかないということですから、絶対数としてはすくないです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/寮がある日本の中学校・高等学校の一覧

  2. 日本学生支援機構 奨学金の制度(貸与型) https://www.jasso.go.jp/shogakukin/seido/index.html

  3. 大学院の現状を示す基本的なデータ https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/ afieldfile/2017/07/24/1386653_05.pdf

  4. 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2016(目次) » 3.4学位取得者の国際比較 https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2016/RM251_34.html